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    2022.04
    2022 TSUISEE上市にあたって 【中華料理と僕が人事になったワケ Vol.2-Ⅱ】

2022 TSUISEE上市にあたって 【中華料理と僕が人事になったワケ Vol.2-Ⅱ】


■配属前面談では、絶対に不用意に話してはいけない

僕は海外営業志望で就職活動を展開し、縁あって、大手電器メーカーから内定をもらうことができた。その会社は、当時には先進的な取り組みをしていて、事業部や職種別に採用活動を行っていた。志望者はそれぞれ希望する事業部や職種別に採用試験を受けることになっていた。確か、一人3つの職種を希望して、それぞれ面接を受けるという流れだったと思う。

そこで、僕は半導体の海外営業職で内定をもらっていた。

もともと海外で働いてみたいと思っていたし、学生時代に少し海外をフラついていたこともあって、僕は海外営業一本で就活をしていた。


無事、メーカーから海外営業で内定をもらい、あとは入社を待つのみという2月。
内定者を集めた懇談会の案内が送られてきた。

懇談会の前に、採用センター長の石川さんとの面談があった。
単位はとれているか?とか、体調はどう?とか、差しさわりのない質問のあと、石川さんが言った。

「前山さんは、半導体の海外営業志望だよね。事業部の方でも、君の評価は高かったみたい。面接をしたエンドウさんは、君を気に入っててね。海外営業期待の新人だって。君もそれでいいよね?」

もちろんです、と僕は即答した。これで海外営業として働ける。世間知らずの僕の胸は高鳴った。

面談の時間は一時間だったけれど、あっという間に話すことがなくなってしまった。
時間あまっちゃったなあ・・・。石川さんはばつが悪そうに言いながら、世間話程度に、僕の近況について聞いてきた。「就活終わってから、何をしてたの?」


僕は、「コンビニでアルバイトをしています」と答えた。
週に5日、僕は南大阪のコンビニでバイトに明け暮れていた。



僕の答えを聞いて石川さんが言った。
「もったいないよ。学生時代にしかできないことしないと。コンビニって普通じゃない?」

僕は、言った。
「石川さん、採用の責任者がそんな色眼鏡で判断してはいけないでしょう?コンビニのバイトを舐めないでください!南大阪のコンビニの大変さを、分かってないんだから!毎日事件ばっかりなんですから!」


僕は、堰を切ったように、クリスマスの頃、僕が巻き込まれたトラブルについて話し始めた。



■「おとなしくて、ええ子やろ」

僕がバイトしていたコンビニは、南大阪の岸和田というところにあった。だんじり祭りで有名な、あの岸和田だ。
周囲は、工事現場が多く、コンビニのヘビーユーザーは、だいたいがお兄ちゃんやおじさんで、建設現場の作業員や、土木作業員の人たち、いわゆる日雇い労働者の人も多く利用するお店だった。

皆さん、ぶっきらぼうで、怖いお客さんも多く、バイトに来た女の子で長続きする子は少なかったように思う。


12月のある日、18時から始まる夜のシフトに出たときのこと。

バックヤードから店に出ようとすると、女性の副店長が、酔っ払っている60代のおじさんに、怒鳴りつけられていた。

「お前、わしを誰やと思ってるんや!いつもこの店使ったってるのに、なんやねん、お前コラ!」

酔って回らない呂律の中、おじさんが激高していた。

フロアには、破れたビニール袋と、一円玉や五円玉が散乱している。
副店長は、泣きながら、「他のお客様にご迷惑になるので。それは出来ません!」と強い口調で反論している。


酔っ払っているそのおじさんは、確かに店の常連だった。
いつも、昼の15時頃に現れて、「ワンカップ大関」を一本買っていく。
支払いは、ポケットから小銭が沢山入ったビニール袋をレジにポンと差し出す。僕らはビニール袋を開けて、一円玉やら五円玉を急いで数えて、会計をするのだ。
時間がかかると、「はよせいや、兄ちゃん。計算遅いなあ。」とイライラしだすので、最初の頃は、何度もレジで冷や汗をかいたりしていた。
(一円玉で、ワンカップ大関の支払いをされると、結構時間がかかるのです)


副店長に激高したおじさんは、ビニール袋を床に投げつけていたようだった。

一体何事かと思いつつ、安全距離を保ってうかがっていると、どうやらいつもと様子が違う。

なんと、おじさんは、可愛い犬を連れているではないか。
毛並みがとってもキレイな子犬が、ボロボロのおじさんのズボンの裾を引っ張っている。

おじさんが、発狂したように言う。
「お前、なんでうちの子を連れて入ったらいかんのや。うちの子、おりこうさんにしとるやんけ。ええやないか、なんであかんねんコラ!」

「すみません。他のお客様の迷惑になりますので、犬を連れて入るのは、認めるわけにはいきません!」
もうすでに、号泣している副店長。

ワンカップ大関を買いにきたおじさんは、犬を連れて入りたい。
副店長として、それを認めるわけにはいかない。

二人の大人が、やけに明るい蛍光灯の下で、今にも掴み合いの喧嘩をしそうになっている。



僕は、そのとき、思い出した。
おじさんが最近、昼間に犬をつれてコンビニの前を一日の間に、何往復もしていたことを。
バイト中、ガラス越しに、子犬をつれている自分をまるでアピールするかのように、コンビニの前を通り過ぎては、また戻ってくる。それを繰り返すのだ。

僕は、目を合わせるとややこしいと思って、ずっと気づかないフリをしていた。
失礼だけれど、見るからに低所得者で、〇〇中毒ではないか?と良くない決め付けをしてしまっていた若い僕は、おじさんを無視し続けていた。


おじさんが、あんなキレイな、手入れの行き届いた犬を突然飼うなんて、どうにもおかしい。


僕は、とっさに、レジで聞いたおじさんの独り言を思い出した。
ワンカップ大関の為に、一円玉の数を数えるのに必死になっている僕をしり目に、おじさんが、語っていたことだ。

離婚してしまったが自分には娘がいて、今度、めでたく嫁ぐことになった。
その娘が会いにきてくれた。

「遠くにいくので、今までみたいに会いに来れないよ、と言われたんやあ」




僕の中で、勝手な想像が始まった。

あの犬は、娘さんが飼っていた犬ではないだろうか。
嫁ぎ先に連れていけなかったか、あるいは、顔をなかなか見れなくなる父親に子犬を残していったのではないか。


勝手な憶測と、稚拙な想像だったけれど、
それは僕を動かすのには、十分で、知らぬ間に僕はおじさんの所に駆け寄っていた。


「可愛い犬ですね~。いつも散歩されてる犬ですよね。おとなしいし、賢そうな顔してる」

怒っているおじさんが、

「せやろ。この子はええ子なんや。それを、このオバはんが、店に入れたら迷惑になるって言うんや。うちの子は、誰にも迷惑かけへんわ。店に入れたらあかんのやったら、外であの柵にでもくくり付けろって言うんか!こんな12月の寒い中、この子を外にほっとけって言うんか、アァ!」


ルールはルールなんで、と副店長が言いかけた所で、
僕の口から自分でも、予想だにしない言葉が出た。

「おじさん。僕が外で抱いてますよ。買い物が終わるまで、一人だと可哀そうだから、僕がこの子を外で抱いてますよ。この子、可愛いから、僕に抱かせてもらえません?」



実は、書き忘れていたことがある。

僕は、犬が、苦手なのだ。


どうして言ってしまったのか。
犬を抱く、なんて。



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