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    2022.07
    2022 TSUISEE上市にあたって 【新人の将来性を予測できるか?  Vol.5】

2022 TSUISEE上市にあたって 【新人の将来性を予測できるか? Vol.5】
-例えば、田舎で糞をさらう新人について-

■「脱糞しないでください」

もうずいぶん前のこと。
僕は新入社員として、電機メーカーに就職したのだが、最初の配属先は、田舎の事業所だった。
海外営業として世界を飛び回る予定だったけれど、
売れては赤字を繰り返す家電製品をつくる古い事業所へと配属されてしまったのだった。

人事勤労担当。
工場の人事担当スタッフとして、泥まみれになる日々だった。

20年ほど経っているけれど、未だ恨みは消えない。
本当に、本当に酷い目にあった(笑)

エピソードには事欠かないけれど、
40歳を超えて、昔話が愚痴なんて、どうにも恰好わるい。
昔話なんだから、聴く人の気持ちなんて度外視して、自慢話を繰り返す方が道理にかなっている。過去が実際より眩しくなるのが想い出であり、加齢は想い出を必要とする。


僕が配属された事業所には、社員寮があった。
築年数は50年を超え、当然耐震基準なんて満たさないボロボロの寮。
製造現場の季節労働者や、中国の西の方から来た多くの実習生が寝泊まりする中に、
新人である僕は、居を構えることとなった。


トイレ、風呂は共同。
1ヵ月の家賃が、7,500円。
言っておくが、タイピングミスではない。1万円を出したら、2,500円のお釣りがくる7,500円、である。

最初の夜、寝ていると、妙に天井が明るい。電気を消しても、うっすら明るいのだ。
特殊な塗料の天井なのかな、と思って寝付くと、翌朝突然、大きな音がして目が覚めた。

「今日の占いぃ~!
今日の残念さんは、双子座のあなた!」


ふふ、双子座!?
双子座B型の僕は、突然の残念さん宣告を受けて、飛び起きたのだった。

懐かしの「めざましテレビ」が僕の一日を破滅させる呪いをかけたわけだが、
しかし、僕の部屋にはテレビがない。


僕は不思議に思い耳を澄ました。
ムシャ、ムシャ、ムシャ。
ゴク、ゴク、ゴク。

そう。
なんと、隣の部屋のテレビの音なのだ。朝食を咀嚼する音まではっきり聞こえる。
僕は壁に耳を当てたり、ウロウロと部屋を調べてみて気が付いた。
足元の畳の半分が、壁の向こうに消えている・・・。

「え・・・」


なんと、その部屋はもともと一つの部屋の間に、仕切りを立てて2部屋に分けた作りになっていたのだ。だから、壁の向こうに畳の半分がある。
これでは、壁ではなく、もはや「ついたて」ではないか!?

そして、壁というかついたては、天井までの高さがなく、天井との間に5mm~1cmほど隙間が出来ていた。

夜、天井が明るかったのは、隣の部屋の明かりが漏れ、天井を照らしていたからだった。


月7,500円の寮は、破壊力抜群で、
他人の生活音が、若くデリケートな僕には相当こたえたのだった。


昼間、事業所で仕事をしていると、寮から電話がかかってきたことがある。
管理担当の人が寮に行くので、ついて来いという。

ついて行ってみて、驚いた。
用件はなんだったか?


共同風呂に「う●こ」がある、というのだ。

「う●こ」は、トイレにあるべきものであり、風呂場にあってはいけないものであるのに。


「中国からの実習生が結構やるのよね~」と寮長。
張り紙もしているんだけど、と。


風呂に入っているとき、中国語で張り紙が何枚も脱衣所に貼ってあった。
「忘れ物に気を付けて」くらいの意味と捉えていたけれど、どうやら僕は甘かった。
意味は、「脱糞しないで下さい」だったわけだ。


寮長は、申し訳ないけれど宜しくね、といい、
先輩と僕は、風呂場の糞を片付けたのだった。

田舎の事業所で、糞をさらいながら、
毎日8時から24~25時まで、土曜日も休むことなく、バカみたいに働いた。

僕より上の世代の人は理解できると思うけれど、
残業代なんて払ってはもらえなかったし、
無責任な上司と、なぜだか偉そうな先輩に囲まれ、
僕の心は荒み、人知れず心療内科に通ったりもしていた。




■愛と修行と旅立ちと

ある企業で新入社員が入社してから、毎月データを取ってみると、面白いことが分かった。

自分から周りに助けを求められるような積極性の高い新入社員に対しては、あえて上司や先輩が細かく指示する介入を行わないほうが、協働力や問題解決力が高まり、組織への順応度(社会化)も高まっていたのだ。

(図1)

(図2)

(図3)




しかしその一方で、そのような積極的な社員であるからと言って、細かなフィードバックやアドバイスを上司が怠ると、勤続意思が低下することが分かった。

(図4)




上司からの助言や、フィードバックなどのサポートは、
必要な助けや助言を自ら求めることができる積極的な新入社員にとっては、問題解決力や協働力の向上を阻害する側面がある。上司が関わりすぎて、スポイルする事態である。
放っておかれる中で、傷ついたり、転んだりしながら、自分の力を高めていく新入社員の姿がそこにはある。

けれど、反対に上司からの助言やアドバイスがないとき、能力の向上は認められるものの、その会社で働き続けたい、という気持ちは高まってはいかない。
放っておかれているので、当たり前だ。新入社員に、会社への愛は育たない。

荒んだ職場で、放っておかれたら、耐えられない若者がいる一方、
なんとかそこで生き抜いた若者には、急激な能力の向上が見られる。
強い人材の誕生だ。
一方で、そんな成長の軌跡を描く若者は、その場を去る可能性も高い。
自分の能力向上が試練を通して為される時、その試練の舞台となった場所は、愛着の対象とはならないのだ。

崖から落とされたライオンは、力強く、群れから去っていく。
一人で生きていきます、と。




僕らは、勝手だ。
強い人材になって欲しいと思いながら、会社を愛して欲しいと思う。
自分で試行錯誤し、なんとか生き抜く力を身に着けた人材は、企業経営を支えるだろう。
一方で、彼らは油断すると去っていく存在でもある。

自分で考えて生き抜く強さを育てたいが、関わりが弱いと、その人材は優秀でも去っていく。一方で、関わりすぎると、人材のポテンシャルをいかせず、成長自体の足枷となる。


一人で強くなって欲しいけれど、皆と一緒の船には乗って欲しい。
矛盾する想いを両立する、繊細なマネジメントが、企業には求められるのだ。




■田舎で糞をさらう新人は、どうなったか?

田舎で糞をさらう僕はどうなったか?


長い労働時間と、無責任な上司。飲みにつれていかれては、午前2~3時まで無理に酒を飲まされ、酔った勢いで胸ぐらをつかまれ、説教を垂れられる。
仕事はどれも引き継ぎなんてなく、当たり前のように丸投げだった。
(配属されて初めて給与計算をするときも、引継ぎゼロ。労働基準法と給与規則、システムの取扱説明書を読み込み、なんとか支払うというアドリブ技。僕のアドリブ支給によって、300人以上の交代勤務手当が誤支給され、その精算手続きと謝罪文作成で徹夜した夜は今でも覚えている)


数年、その事業所にいて、僕は毎日フラフラになりながら、けれど、タフになった。
頼れる人はいないから、自分で考え、決断し、間違っていると思ったら、相手が誰でも噛みついてモノを言うようになった。

「扱いにくいけど、アイツは仕事はできる。」

そんな評判がたっていたこともあってか、僕は本社の企画部門へと異動になった。
本社に異動したとき、異動先の上司に言われた。

「君は評価が高い。今後は経営をしていける人材になって欲しい。人事はもう卒業だ。期待しているよ」


本社ビルの37Fで、偉い人が笑顔で僕を褒めてくれた。栄転。

もう糞をさらう必要なんてないわけだ。


鮮明に覚えている。
その言葉を聞いたとき、全く嬉しくなかった。
数万人の会社の中心へと異動になったけれど、僕の心はなんだか遠いところにあった。
その時、心がどこにあったか、今でも分からない。



人手不足と価値観の変化もあり、
若手社員の獲得と離職防止は、人事部門の大きな関心事になっている。
若手に腫れ物に触るように接する会社も多くなっている。

一方で、秀才や、真面目なだけの人材では、変化の時代を企業が乗り切ることはできない。


不用意なマネジメントでは、背反してしまう『愛着』と『成長』
その狭間で、未来ある若者をいかに迎え入れるのか?


TSUISEEというアプリケーションは、新入・若手社員の『成長』と『愛着』に向けて、
効果的な関わりを探索し、決断できるツールでもある。
どこに行っても通用する人材を育てることと、同時に彼・彼女らにとって、Onlyな職場でもあるという離れ技を実現するには、どうしても実践的な科学が必要なのだ。
勘や経験、慣習を超えるデータサイエンスが提供するインサイトで、企業や人事は簡単に変われる。


僕は電機メーカーを辞め、コンサルティングの世界に転職し、それから起業した。
夢を語って仲間を集め、ビクビクしながら自分で決め、オドオドしながら、歩いている。


崖から落ちて傷ついた僕は、群れを離れ、
今は小さな群れを形成しているのだろうか。
これから一体、どんな群れをつくっていくのだろうか?

強いライオンこそが育ち集まり、決して離れない群れ。
その群れを夢想するとき、僕は20年前の、少し寂しそうに群れから離れていく僕の後ろ姿を想像し、胸の奥が締め付けられる。


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