内容:知見と事例

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    2020.12
    メンバーインタビュー【中岡慎治 Vol.1】

皆さん、こんにちは。
スタートアップ新会社Maxwell’s HOIKOROの立ち上げでバタバタしており、毎日てんやわんやの上野です。コロナが再び感染拡大してきましたが、一年の締めくくりの12月、しっかりと楽しんで進んでいきたいと思っています!

さて、これから2回に渡り、久しぶりのメンバーインタビューをお届けしたいと思います。今回は、わたくし上野が、弊社データサイエンティストの中岡慎治にインタビューを行いました。数学者で、ちょっと変わり者(笑)の中岡さんの実像に、迫ってみました!

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上野:中岡さん、今日はよろしくお願いします!色々突っ込んでききますので、しっかり答えてくださいね。

中岡:はい、こちらこそ。

上野:中岡さんって、そもそも、何をしている人なんですか?数学が専門だと聞いていますが。経歴や専門を教えてください。

中岡:私は普段、大学で教員をしています。もともとの専門は、数学の中でも応用数学、より詳しくは微分方程式を専門としていました。特に生態系の分野で古くから研究されている方程式があって、個体群ダイナミクスの数理モデルというのがあります。最近、コロナウイルス感染で世間でも取り上げられるようになった、感染症の数理モデルってありますよね。あのイメージで捉えてもらうとわかりやすいと思います。

まずは数学的興味から生態学や生命科学に徐々に興味をもち、生物学や医学の研究に興味を持つようになりました。だんだんとハマっていった形ですね。ちょうど同じ時期、生物学に限らず、これまで数学があまり応用されてこなかった分野でも、データサイエンスや数理科学との連携が活発になり始めた頃でした。各分野で計測技術が発達し、これまで得られなかったデータ(ビッグデータ)が出てきたこと、そして、計算機が高性能になり、誰でもデータを解析できるようになった背景があります。

学位取得後、免疫学の研究センターであったり、医学部でも社会医学系の研究室に在籍してきました。現在は、北海道大学の理学部に在籍しています。研究の世界という意味では、そもそも学際領域を研究の主フィールドにしているため、色々な組織に滞在してきました。たとえるなら、移民のようなものですね。現在の所属は、生物、化学、物理学的なアイディアを持ち込んで、高分子(タンパク質や核酸といった生物にとって重要な物質)や生命現象を理解・応用しようとしているスタッフが多くいて、移民であることに抵抗がありません。大変よい環境です。

上野:HYAKUNEN とHOIKOROに参画したいきさつは?社長の前山の同級生ですよね。

中岡:そうです。高校1年のときに出会いました。同じクラスで。当時は5人くらいの仲が良いグループの一員で、結構好き勝手やっていた感じで、楽しかったです。不良とかそういうわけではないんです。進学校で教科ごとに成績上位者の名前が貼り出されるのですが、皆常連でした。でも、全く授業はきかない(笑)。先生の教え方に楯突いたり、間違いを指摘したりといったことをしていましたね。意味不明な規則や権威みたいなものには、とにかく噛みつく生徒でしたね。

上野:成績良くて、噛みつくって、たちが悪い・・・。

中岡:本当、そのとおり(笑)。今思えば、感じ悪い。最悪ですよね~。

上野:前山もそうだったんですか。

中岡:うーん。まあ、そうですね。きょうやん(前山の呼称)は曲がったことが嫌いだし、信念あるからね、昔から。25年くらい経ちますが、今もそこは変わってないですね。学生時代も、あまり群れないし、流されないし。高校時代から一番一緒にいますね。仲が良かったメンバーとも疎遠になっていますが、きょうやんとは定期的にあってきたし。一番仲がいいですね。

上野:前山から、中岡さんがHYAKUNEN とHOIKOROに参画するという話をされたとき、「親友で、一緒に働くの夢だったんだ」と言われたのを覚えています。前山は中岡さんのファンですよね。

中岡:オウム返しになりますが、私も親友のきょうやんと一緒に働くのが夢で、ファンでもあります。漫画で例えます。ファミコン通信という雑誌が昔ありました。この中に鳥嶋さんという人へのインタビュー記事が載っています。鳥嶋さんとは、Dr.スランプアラレちゃんに出てくるDr.マシリトのモデルとなった人で、少年ジャンプではドラゴンボールを育て上げた伝説の編集者です。この記事、とても長いのですが、爆発的な人気を博した漫画を多数提供し続けた少年ジャンプ、また、ファミコン隆盛時の流れを作ったエピソードについて書かれています。その中で、鳥嶋さんは、面白いマンガの条件について語ってるんです。端的にいうと、「主人公クラスのキャラが魅力的」であることです。キャラが魅力的であれば、ストーリーは副次的でもよい、とも書いていました。これが大変印象的で、まさに、自分にとっては、きょうやんが当てはまるんです。

HYAKUNEN を立ち上げるに至るまで、(主に大変な経験が多いですが)きょうやんは、色んなことを経験してきてますよね。私は友人として、毎年年末には会って、きょうやん情報をアップデートしてきました。居酒屋やらで、その年に起こった奇想天外な出来事とアクションを楽しみながら聴きます。そして、たいてい物語は来年に続く的な終わり方になります。いわば、きょうやんが主人公として、自分自身の人生をかけて進んできた物語を、高校卒業後から20年以上購読してきたのが私です。もしこの記事の読者で、これまでにきょうやんと接して魅力を感じたことがある方、私がファンであり続けられる理由、想像してもらえると思います。同時に、HYAKUNEN、HOIKORO で一緒に働くということは、自分もそのストーリーの登場人物として、参加するということです。この嬉しさも、言葉にする必要はないですよね。

上野:中岡さんはHYAKUNEN、HOIKOROでは、まさにデータサイエンスのトップとして取り組んでいます。そもそも中岡さん、データサイエンスって何なんですか?知っているようで、実はよく知らないもののような気がしています。

中岡:データサイエンスという言葉、AI (人工知能)と同じく、シンボル的な用語として使われることがあります。したがって、明確な定義はどこかで行われていると思いますが、ここでは定義よりも、私の経験に基づいた解説をさせてもらいますね。

私は普段、医学、農学といった方々と、共同研究を行っています。各分野で得られたデータを元に、データに潜む意味や規則を見出すべく、データ解析手法を駆使して、問題解決に望みます。データ解析に望む前段階では、分野(フィールド)の前提知識を教えてもらいながら、解決すべき課題の洗い出しと目標設定等々について、共同研究先と議論しながら、有効な解決策を模索します。まさに、フィールドが主戦場です。したがって、他分野の研究者と共同研究を進める際、自らの役割を、フィールドデータサイエンティストと呼んでいます。

一方、研究室では、まだこの世の中に存在しないデータ解析に有効な手法を開発、提案する仕事に従事しています。新しい情報を仕入れたり、知らない分野について一から勉強したり、仕込んだアイディアをさらに洗練させる作業に取り組みます。

フィールドデータサイエンティストは、商社の人のイメージです。商社では、依頼先の困った相談に応えるべく、原材料の調達や販路の開拓などを行います。フィールドデータサイエンティストも、適した解析手法やテストデータの準備と提案、実施を行います。オンデマンドで問題解決に取り組む点は、商社に通づる部分があると思います。一方、普段、研究室で行っている研究は、フィールドデータサイエンティストが問題を解決する際に用いる、道具そのものを作るイメージです。こちらは、商社というよりも、むしろメーカーに近いかもしれません。

私は今現在、「数学で知る腸内環境」という標語の元、腸内細菌(フローラ)と健康の問題にデータ解析の立場から研究を進めています。研究をより実社会で役立てるため、いくつかのプロジェクトに参画しています。その中でも、北海道の岩見沢市を中心に進めている、母子の健康に関するプロジェクト(北大 COI 【食と健康の達人】)では、データサイエンティストとして参画しています。食と健康プロジェクトでは、いくつかの試みが同時進行で進んでいますが、中には、「健康ものさし」を作る試みがあります。身近な例に即して、モノサシ、つなわち、対象間の距離を測ることのメリットを述べましょう。モノサシがあれば、背が高い低いといったことがわかります。また、建物間の距離がわかるので、街の地図を作ることもできるようになります。したがって、もし「健康」を測るモノサシがあると、個々人の健康状態を、地図上の位置として定めることができます。このアイディアを具現化すべく、現在、健康地図を作成する研究に取り組んでいるところです。

最後に、データサイエンスが与える世の中へのインパクトについてです。データサイエンスは、いわゆる人工知能研究と密接に関わっている側面もあるので、自動翻訳や音声合成、画像認識の面で、問題解決の道具として社会に大きなインパクトを与えています。一方、私は、個別の問題を解決したときの衝撃(インパクト)よりも、社会において不可欠な存在として浸透していく側面により深いインパクトを感じています。近い将来、知らない間に日常生活の様々な局面で、予測やデザイン、診断、人間の思考をサポートするなど、さまざまな局面で社会の新しいインフラとして機能すること、これがデータサイエンスや数学のもつインパクトだと思っています。

上野:人と組織に関わるデータサイエンスの面白いところ、あるいは難しいところ、はどんな点ですか。

中岡:一般論だとすごく多岐にわたるので、個人的な興味に絞らせて下さい。人と組織を理解する上で、そもそもの「人間の認識」や「意思決定の要素」がデータの解釈や結果に大きく寄与しうる点、ここが面白く、また難しい点と思います。もう少し具体例で述べます。たとえば、データ解析を物体の運動に対して適用する際、物体は物理法則に従うため、一般に、解析結果を自由に解釈する余地はありません。

一方、人と組織に関わるデータでは、人と組織の間に物理法則のような規範となる法則性が見受けられないため、データ解析を行った後、規範となる認識に基づいて、結果を解釈する必要があります。妥当な認識とはどういうものかという段階から、意思決定も含めて考える必要があります。データから1つの「解」が得られるというのではなく、データから導かれたものを妥当性のある解釈に落とし込まなければならない。この側面が、人と組織に関わるデータサイエンスをより面白く、かつ難しくしていると思っています。あと、単純に、HYAKUNEN、HOIKORO で扱う人と組織の問題は、深く考えずとも楽しいです。そして難しいですね。

上野:データサインエンスの解説やHYAKUNEN、HOIKORO でのプロジェクトについては、このブログ記事で、中岡さんに解説してもらうことになっています。難しい概念を、わかりやすく説明するのが上手い中岡さん、記事、期待していますね。

中岡:ハードル上げ気味ですね・・・。頑張ります!

上野:データサインエンスなどは今後の記事に譲るとして、HYAKUNEN、HOIKOROについて聞きたいと思います。中岡さんからみて、HYAKUNEN、HOIKOROってどんな場所でしょうか?特徴や強みなど感じるところはありますか?

中岡:HYAKUNEN 、HOIKOROってどんな場所?という質問については、楽しい場所です。私は、放し飼い状態で自由にいられる場所を提供してくれる人や雰囲気に対しては、素直で従順なので(笑)、HYAKUNEN、HOIKORO はとても過ごしやすいです。特徴と強みですが、半脆弱という言葉を、きょうやんが語ってましたね。そこが強みなんじゃないかなと思います。強い武器や道具に頼るのではなく、時々に応じて柔軟に道具を使い分ける、セオリーを重視しながらも求めるゴールを達成するために、アプローチを変える適応力がありますよね。柔軟性と局地戦の強さですね。スポーツ選手でいうと、得意技を作らず、相手に対策を練らせないタイプに通づるところがあると思います。

上野:中岡さんが参画して、私自身すごく、世界が広がったというか、ちょっと衝撃でした。正直私の理解を超えているのですが、AIの最先端の状況なども教えてもらい、実際にプロジェクトも進んでいく中で、AIができることのレベルに驚いています。人間が生み出す価値みたいなものが、本当にAIに勝っているのかというと・・・。

中岡:AIはまだまだ出来ないことももちろん多いですが、予想を超えたスピードで進化していて、社会のあり方やビジネス、私たちの日常をドンドン変えていきますね。専門分野が少し違うと、正直僕でも追いつくのが大変な領域も多いです。社会で生きていくうえで、データとどのように付き合うのかを真剣に考える時代にもうなっていますよね。

話が脱線して、かつ本筋にも戻らないので恐縮ですが、人間が社会を形成する上で不可欠であった労働による奉仕、搾取や格差が生まれるメカニズムの観点から、人工知能が仕事を代替するようになった時代の人間の生き方について考える必要があると思っています。人間が社会を形成する上で不可欠であった共感性、依存できるシステム(福祉)が充実した温かい社会と、人工知能を操るものと操られるものの間での格差社会が、果たしてうまく調和した世界になるのか、それともそれらが両極化して混在する混沌とした時代になるのか、是非も含めて考える時代に来ていますね。

上野:歴史の転換点では、技術の非連続の発展があると読んだことがあります。そういう局面に来ているんですね。人間の仕事もどんどんなくなっていくのかも知れないですしね。

中岡:少なくとも、AIによってやりたくない作業がなくなるという点は、スーパーウェルカムですね。

上野:なるほど。機械と人間の関わり方が変わって、新しい社会のカタチもまた生まれてくるような気がします。注視していきたいなと思います。

上野:HAYKUNEN、HOIKOROは人と組織にどのようにデータサイエンスを活用するのかという挑戦を行っています。これは、全く新しい挑戦で、正直どうなるか分からないようなテーマだと思います。中岡さんからみて、そもそも新しいことを生み出すために必要なことってどんなことだと思いますか?

中岡:まず、背景を書きます。いわゆる AI を利用したサービスがブレークスルーしている背景には、サービスを支える技術をコモディティ化できた点があります。

いわゆる AI として社会に浸透しているサービスって、実体はディープラーニングを指す場合が多いです。現在、ビジネス界ではディープラーニングを利用したサービスが色々と生まれています。ちなみに、ディープラーニングが普及した背景には、ディープラーニングがもつ学習に対する性質があります。
研究は目下進んでいる段階ですが、ディープラーニングは、データがたくさんあると、判別や分類に重要な特徴量を、データから自動で生成する仕組みが備わっているようです。実は、特徴量については、機械学習の分野でずっと研究が進んできました。特徴量に基づいて、予測や分類を行います。これまで、よい特徴量を設計すること自体は容易ではなく、高い専門性に裏打ちされた科学、工学の専門知が必要でした。ディープラーニング出現後は、よい特徴量を設計できる職人がいなくても、その精度を操作できるようになりました。

多少の誤解を承知で例えると、車のエンジンに対する理解がなくても、アクセルを踏むことで、車の速度を制御できるようになったイメージです。教習所で車の運転を習うことができます。習うことで、誰でも車を走らせることが出来る。エンジンを知る人だけが車を動かし移動することが出来た時代から、多くの人が車を走らせることが出来る時代になった。移動が一般化し、そして移動範囲が広がっていく。これはディープラーニングの功績だと思います。ディープラーニングは、その意味で世界を広げるToolと言えますね。私たちを未知の世界に連れて行ってくれます。そしてその際、新しいことを生み出すのに必要なことは、結局、答えにはなっていませんが、少なくとも、車に乗って移動しながら、自分達のゴールにとって必要な“もの”を、探しに行くことだと思います。
その際、データサイエンティストは、魅力ある観光案内のできる運転手とも言えますね。行きたい観光地について、運転手が精通してくればくる程、よいところに連れて行ってくれますね。データサイエンティストと長く付き合う良い関係性を築くことも、新しいことを生み出す必要条件だと思います。

上野:この間全員でのミーティングで、前山が「専門性を持ち寄るための、知の扱い方」について自覚的でないといけない、という話をしていました。私を含めて一般のビジネスパーソンには敷居の高いデータサイエンスや数学などを専門にする中岡さんからみて、純粋なビジネスに携わってみて、どんな感想をもっていますか?

中岡:大学などで行われている基礎研究では、新しいことの種を育てるプロセスが重要な仕事です。一方、純粋なビジネスでは、社会の需要に応えるサービスを具現化してはじめて、受け入れられます。荒く言えば、売れないとダメですよね。研究者というのは、多くの場合、新しいことの種を育てることに全身全霊なので、開花させるまで考えているわけではありません。新しいものを世に出す努力と、世の中が少しでも良くなればと思って動く部分は、これまであまり考えてきませんでした。今、純粋なビジネスに関わることで得る経験は、自分にとって、とても貴重なものです。

上野:当初、HYAKUNEN、HOIKOROをつくったときに、「専門性を超越するチーム」というコンセプトがありました。企業の中でも、部門や専門性が違うとなかなか一つになれず、部門間対立がおきたりして、全体最適ではなく、部分最適に陥っている企業がほとんどだと思います。そうなると、つきなみな表現でいう、新しいこと、イノベーションが起きませんよね。

中岡:イノベーションについて、オレオレ流の定義だと、計画可能性で分類できるんだと思います。一つは、まだ誰もやっていないけど、できそうなことに取り組んで生まれる成果物です。専門性の違う人達が集まり、全体最適化なりを目指す中で出てくる可能性があります。つまり、結構計画が立てられるものですね。それでも実現は難しいと思います。

もう1つは、計画不可能、つまり、なんかしらないけどすごいものができた系です。これは、とにかく無数の失敗や努力・改善、執念、忍耐力、運、友情、愛情、寄付、等々に裏打ちされていることだけは確かだけど、なぜうまくいったか説明できないタイプのイノベーションです。イノベーションによる投資・体制づくりという観点から、両者は全く異なる戦略や予算編成を組まないといけないことは確かでしょうね。後者は、短期的な成果を求めず、分散投資して祈る以外にないのではないでしょうか。

上野:私自身は、HYAKUNEN、HOIKOROではとにかく新しいことに挑戦し、既存の枠やこれまでのやり方など、なんでも越境していくことが多いので、それを中岡さんはじめ、みんなと一緒に体験できていることは本当に幸せだし、ラッキーだと思っています。

中岡:HYAKUNEN、HOIKOROでの議論は、幅広いアプローチや切り口、根拠の拠り所となる理論や発想が飛び交う場であり、とても楽しいです。HYAKUNEN、HOIKOROで感じていることは、参画している人が楽しいということですね。これはイノベーションに関わる人にとって大切な要素だと実感しています。


(Vol. 2に続く)
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